hoho!

みえないものをさわる

prosed



私は無敵だ。

高校を卒業してふらふらただようように道楽とも仕事ともつかないような仕事を適当にしてきたわたしにとってこれが初めての社会体験と言っても言い過ぎではあるまい。

世の中のほとんどのプロダクツというものはこのようなつまらない単調作業の繰り返しにより生まれるのだろうか。わたしのゆめみたモノづくりの現場とは。人間の力、それは根気だ。銀座のきらびやかなショーウィンドウにかかった真っ赤なコートの首元のタグにのってるデザイナーがどんなに背伸びしたって、労働者には勝てないんだ。
ベルトコンベアに寄り添って手はいそいそと動かしつつ、暇な頭を巡らせて、
疲れて帰ってきたサラリーマン、最近白髪が成長してきた、彼女はいるが結婚の見通しはなく、上司と出来損ないの部下との間に挟まれ辛い一日、マンション購入を考えるもそもそも物件探しの時間がない、五年前から住んでいるワンルームのマンション、隣人はすこし不気味な東北訛りのおじさん、空いたお腹を満たすべく買ってきたのはコンビニの親子丼、どっこらしょと腰を下ろして器用にパッケージをはがす。トロトロの半熟卵だけが僕の心を溶かしてくれるんだと閉じた瞳よあなわびし。
そんなシチュエーションを考えて、くたびれたサラリーマンのためにと半熟卵を何千個も親子丼の上に載せても、こうぐっとくるものはなく。



来週もくるのとおばさまにいわれたけれど、すこし遠慮気味に首を横に振ることしかできなかった。


つかれた。

だから図書館にいってみた。読むべき本は数あれど、読みたい本に読むべき本は勝てないのだ。読むべき本をさしおいても読むべき、読みたい本がある。読書下手なわたしに面白い本を教えてくれる友人がいる限り、人生は明るいだろう。

これからよむ。