hoho!

みえないものをさわる

MOTHER



その子に教えられる一番有用なことといえば、歩道橋のうえで、いかに派手なパフォーマンスをするか、だった。

歩道橋のうえが、その子の食卓になり、職場になり、寝床になることを、あの瞬間わたしは悟った。



今日も抱きかかえられて到着した職場で、なるべくよりかかりやすい柵のところまで這いつくばり、進む。しっくりくるポジションが決まる頃、すこし汗ばんだ背中をひんやりした鉄にくっつけて一息つく。
まだもやのかかる朝、頭もはっきりしない。そして、はっきりさせないまま一日を過ごす。暑すぎず、寒すぎず、雨が降らない一日をうっすらと祈る。



わたしはもちろん後悔していたけれど、当然のように脳内に蔓延る後悔をうち殺した。生命を、生命としてみることをやめた。馬鹿馬鹿しいと思った。起こらなかったこととして、処理をした。そのためにも、伝えるべきことを早めに告げた。

とにかく目立ちなさい。
理性の限りを尽くした。彼の小枝のような足を折り取った。鞄に隠し、部屋をでた。ちょうどゴミ集めの女性がいたので、リヤカーのなかに放り捨てた。



どのくらいの、時が経ったのかわからない。足の付け根から吹き出す自分の血を見たのと、お腹を空かせて駆ける野犬と目があったのとでは、どちらがさきだっただろう。

ぼうっとした頭に、手拍子と音割れしたカントリーミュージックが聞こえてくる。座っている橋を構成するれんががバラバラとくずれさる夢を見て飛び起きる。缶を見て二枚の紙幣が入っているのを確認する。

僕は頭をさげ、大きな声で母から習った言葉を叫ぶ。一通りで5分だ。正確には4分25秒くらいだ。見覚えのある靴が近づいてくると、すこし心臓が動くきがする。期待通り、お金が入れられる。そうすると心臓はまた止まる。

死んだらどうなるのだろう。今と、変わることがあるのだろうか。なんの変化も、想像できない。四季折々の空気の温度、人々の着る洋服、太陽の位置。変化の種類は、他にもあるのだろうか。

休日の喧騒に、耳が遠くなって、足の付け根が痛み出すころに、トラックがやってくる。

闇に浮かぶ白。抱きかかえられてのせられる。

何故僕を殺さなかったのかと、考えながら暮れる日に、飽き飽きする。