hoho!

みえないものをさわる

prose

 

そろそろ夕ご飯の時間で、カーテンの向こうが薄紫色なのに、台所は暗くてひんやりしている。こどもは少しおなかをすかせながら、コンピューターにむかって仕事をしているお母さんに、散歩に出るという。お母さんは画面から目を離さないまま、それを許可する。こどもはコートも着ないでそっと扉を開けて、エレベーターに乗り込む。扉の音がやけに小さかったので、お母さんは不思議に思う。少し早歩きで扉に向かい、すこし開けて外を覗くと、もうそこにはこどもはいなくて、ろうそくの様な香りだけが漂っている。お母さんは冷たい手をこすり合わせながら、靴を履いてエレベーターの方へ向かう。エレベーターのパネルに、15階の表示がある。お母さんは不思議に思う。乗り込んで15階のボタンを押す。ろうそくの様な香りだけが漂っている。15階について辺りを見回すと、右の方でこどもが壁によじ登って外へ飛び降りようとしている。お母さんは呼び止める。こどもは外の方へ足を投げ出してぶらつかせてみせる。お母さんは不思議に思う。こどもはお尻を少しずらす。お母さんは冷たい手をこすり合わせながら、呼び止める。こどもは勢いをつけて身を投げる。お母さんは不思議に思う。ろうそくの様な香りだけが漂っている。